もうすぐ、もうすぐだ。

あたしは紙袋を抱く力を強めた。

滅多に乗らないタクシーの中、無愛想な運転手の白髪交じりの頭を見ながら、黒のスーツが入ったそれを更に強く抱いた。

「あの……」

腕にばかり力がいって、声が思うように出ない。

呼びかけは運転手に届かなかった。

そのまま目的地を通り過ぎ、あたしは脱力した。


運転手は駅に着くとドアを開け、「1100円です」と初めて笑った。