そう告げるとオッサンは満足そうに笑って、キッチンから離れていった。


「うぜ…」


ちょうど揚げ上がったドーナツを油から掬い上げ、私はパイプ椅子に腰を下ろした。

ポケットから煙草を取り出しくわえる。

キッチンでは、流石に火は付けない。

それでも口にくわえてるだけで、幾らか気分が晴れる。


「っは…ぁ」

「あの、佐凪さん……何かありましたか?」


モップを片手に戻って来たイッキが、キッチン入口の所で立ち尽くしていた。


「何もねェよ…つーか掃除終わったの?」

「あ、は…はい」

「そか……なら、オッサンとこ手伝ってきな。ここは私だけで大丈夫だ」

「けど、佐凪さん、何か調子が…」

「大丈夫だっつってんだ。行けよ」

「あ……わ、分かりました」


う、しまった。

ちょっと怒鳴るみたいな感じになってしまった。

イッキはモップを片付けて、キッチンを去っていく。


それを見送って、私はズルズルと椅子に深く体を沈めた。


「……またか」


体から力が抜け、腕がだらりと垂れ下がる。

口もだらしなく開いて、煙草が零れ落ちた。


病気の影響だ。

時折、こんな風に体が動かなくなる事があるんだ。


「……はは、私の体、マジ壊れてんだな」





*****