その時、
交番の戸を弱々しく
叩く音が聞こえた。
小石を当てたくらいの
小さな音だが
おまわりさんは聞き逃さず
奥の部屋から
気だるそうに歩いてきて
口に手をあて
あくびをしながら
戸を開ける。

「やぁ、
どうしたの?」

この窓際の角度からは
傘が立てかけてあるだけで
誰がいるか見えなかったが
話しかけてる視線は
下を向いていたので
私は子供が
来たのだと思った。

部屋の中へ
迎えいれる仕草を
していたが
返答はなく
客人の物であろう
朱色の紙貼りの
から傘を両手で持って
部屋の中に入り、
座布団を敷いた
パイプイスに自分は座って
対面にもってきた
イスの上へ
その傘を立たせた。

イスの上に
傘を置くなんて
奇妙な事だと思ったが
すぐ私は納得のいく光景を
目の当たりにする事になる。

その傘は勝手に
開いたり閉じたりと
まるで呼吸をするかの様に
生き物みたいな
動きをするのだ。

……なるほど。
客人は物だったか。

長年使われた物には
魂が宿ると
聞いた事がある。
その一種なんだろう。
だから私は
なんら疑問ももたず
ただその2人の行方を
見守る事とした。