オバケの駐在所

「ほら、この木。
周りに比べて
一本だけ小さいし
花もつけてない。」

「……そうねぇ。

ほら、いきましょ。」

桜の木に近づく私を
裾を引くように
彼女は促すのだが
私は先ほどの事もあり
つい立ち寄ってしまい
荒らげた幹を
確かめるように
手で触れてみる。

……いないな。

足元を見ると
周りの土と違い
湿気のある
柔らかそうな土が
根元に敷かれているだけで
血や臓器など
生臭いものは
何も見当たらなかった。

見間違いって事は
無いと思うけど……。

上を見上げると
固く殻に閉じこもる様に
つぼみのままの桜が
なっている。

姉がいれば
桜の精霊みたいなのにでも
話しかけてくれたかな……。

咲けば
こんな美しい世界が
広がってるのよって。

一年前に
東京で姉はふとした事で
亡くなってしまった。

私は憔悴し
悲しみに
打ちひしがれていて
ずっと心を
閉ざしていたのだ。

変わらなきゃ
いけないんだ。
扉を開けないかぎり
幸せは訪れない。

強くならなきゃ。