オバケの駐在所


よく昔を思い出してしまう。

何の心配もなく
毎日を漠然と生きていて、
未来に無限の
可能性があることに
まるで疑いがない、
甘ったれた時のことを。

自分が今どうしたらいいか
わからない反面、
仲間にしろ親にしろ、
好きなやつと笑いあえれば、
それが自由とはぎ合わせる
トーチの灯のような時を
生きてきた。

それが年月が過ぎ、
いつのまにか歩める未来が
狭まっていると実感した時は、
トーチなんかじゃなくて
ロウソクにでも
灯していたんじゃないかと
思ったほどだ。

幸い周りから
取り残されているわけじゃ
なかったが、
想像していたよりも
自分はちっぽけ
なんじゃないかと、
怠惰な暮らしに
やけにピタリと
ハマっている自分がいた。

「えー、
小百合さんって業務管理の?
野村さんじゃないの?」

「野村さんは
ただの遊びでしょ?
本命は昔っから
変わってないよ」

レンガ造りの
茶じみたビルから外を臨めば、
気が滅入るほどのビル群。
その入り乱れた経済体制には
自分の不甲斐なさを
慰めてもらえる力があった。

傷を癒やしてくれるのは
いつも似たような境遇の
同轍者なのだ。

……って、つい、
ここに来ると
感傷的になってしまうな。

俺は灰を伸ばしたままの
タバコを、
力任せに灰皿に押しつけた。

「……あ、ねえ」

「……やだ。聞こえたかな」

クスクス笑いながら
エレベーターのほうへ
コソコソ走り去る女子社員。