オバケの駐在所

私は六畳一間の
白いアパートを出ると
ぷらぷらと花のない
桜並木を歩く。

枯れ枝の向こう側には
どこまでも暗い夜空が
広がっているが、
今でもどこかで神様は
酒盛りをしているのかな……?

気のせいか空の一部に
小さい光が
飛んでるのが見える。

そのまま私は
素っ気ない建物が並ぶ
いつものあの交差点へ
やってきた。

交番を覗いてみる。

やはりここもいつものように
まるきり人気がないのだが、
ため息をついた私の肩を
後ろから不意に
誰かが叩いてきた。

「困りますねぇ。
あなたはもうすでに
亡くなられて
おられるんです。
勝手な真似は自粛して
いただきたいものですね」

後ろにいた者は
目元が見えないくらいに
帽子を深く被っていて、
気取った笑いを口元に
冴えわたらせている
男の人だった。

……ってこの人は。

「はいはい、
悪い冗談だよ。ハジメさん。
あなたが自粛しなさい。
もうっ」

そう言ってあげると
その男は親指で
帽子のツバを上げて
その澄ました瞳を面に見せた。

「……帽子の予備が
これしかなくてさ。
ブカブカなんだよな」

「あ、そっか。
私が被ってたから……。
でも返さなくて
いいんでしょ?」

「うん。
あれがあれば神様も
手を出してこないし、
目印みたいなものだし
持っておけばいいよ」

黄泉行きの
オバケ列車に乗っていた
車掌みたいな帽子の
被り方をしたハジメさんは
交番の中に入ると、
私に背を向けて
黒い帳面を開き
何かを書き始めた。

また例の報告書であろう。

何を書いているのやら……。