たっぷり8時間
有意義に眠った時と
感覚が似ていたが、
今までの事が全部
夢だったなんてわけはなく、
私はふと目を覚ました。
ここはベッドで私のお家。
時計を見ると
7時30分ちょい前。
外は暗い。
けれど向かいの
マンションの部屋の灯りは
ほとんどが点灯している。
包丁でまな板を叩く
小気味いい音が
どの部屋からも
聞こえてきそうな頃合いか。
死んだり、舟に乗ったり……、
とんでもない体験をしたのは
事実なんだろうけど
この部屋に充満している
夕げの味噌汁の匂いが
一番夢であるみたいだ。
途端に枕元にある
目覚ましベルが
トレモロのようにして
鳴り響いたが、
私はあわてずに
スイッチを切った。
私はベッドから
のそのそと起き上がり、
台所への扉を開ける。
コトコト小さく揺れる
鍋の蓋。
皿に盛られているのは……
なんだこりゃ!?
コゲか!?
コゲを食えってのか!?
……お風呂場からは
水を弾く音がする。
きっとシャワーを
浴びているんだ。
水面所で
顔を洗いながら思う。
料理の腕はまこと恐ろしいが
後でたっぷりと
言い聞かせることとしよう。

