オバケの駐在所

「人間の願いなんぞ聞き入れる
わけがないってことだ。
わしに言うことを聞かせたくば
分相応以上なことをしろ。
さて、バカ正直な所は
斟酌してやってもいいが
神々を騙した罪は重い。
だがサクヤ姫の面子もある。
さあ、姫。どうしてほしい?」

言葉が出なかった。

こんなにも
人が思っている神と
相反するなんて。

「答えろよ。
わしは聞いてるんだ」

もちろん助けてほしいと
言いたかったが、
唇はもはや
呼吸だけで精一杯で
声の発し方を忘れている。

恐怖が我が身を
わしづかみしてるよう。

床に膝と尻をつけて
へたりこんだまま
使わなくていい筋肉が
勝手に全身を締め付けていた。

けれどそんな時だった。

舟が低い音でうなりながら
急に大きく斜めに傾いた。

バランスがとれなかった私は
壁のほうに
転がり落ちてしまい、
おかげでテンパった意識は
元に戻ったけど
それにしても
起きあがるのも難しいくらい
今までにない揺れ方。
ダイコクはというと
朱色の手すりに捕まり、
何故か白くなり始めた
東の空を睨んだ。

そして再びコマを回すように
揺れる船内。

「おい、この揺れは
お前のしわざか?」

身の丈に比べると
随分と小さく
見えてしまうようになった
木槌を私に向けて
ダイコクが言った。

……いや、木槌の先は
わずかにずれている。
後ろ?

思うが早く振り返ったら、
そこには膝に手をついて
しんどそうに息を切らした
ハジメさんがいた。