支度をすませ
バッグを背負い、
いつもの黒いダウンを着て
家を出ると
れいかに呼び止められた。
「かずくん、天気予報で
今夜雪になるって。
折りたたみ傘
バッグに入れとくね。」
バッグのチャックを
おもむろに開けて
中にしまおうとするれいかを
とっさに制止して、
俺はそっと手で受けとった。
「ありがとう。
……なぁ、
……キスしていいかな?」
突然わいて
でてきたようなセリフ。
「えぇ?
どうしたの?」
妻も急なお願いに
照れている様子というよりは
びっくりしている感じだ。
「駄目か?」
「……いーけど」
目を閉じて
あごを軽く上に向ける妻。
路上でキスをするのは
いつ以来だろう。
いや、その行為自体が
もう記憶に乏しいくらいだ。
――しかし唇を重ねても
心のもやもやは
晴れなかった。
前みたいな酔うくらいの
甘い刺激を感じることは
できなかった。
バッグを背負い、
いつもの黒いダウンを着て
家を出ると
れいかに呼び止められた。
「かずくん、天気予報で
今夜雪になるって。
折りたたみ傘
バッグに入れとくね。」
バッグのチャックを
おもむろに開けて
中にしまおうとするれいかを
とっさに制止して、
俺はそっと手で受けとった。
「ありがとう。
……なぁ、
……キスしていいかな?」
突然わいて
でてきたようなセリフ。
「えぇ?
どうしたの?」
妻も急なお願いに
照れている様子というよりは
びっくりしている感じだ。
「駄目か?」
「……いーけど」
目を閉じて
あごを軽く上に向ける妻。
路上でキスをするのは
いつ以来だろう。
いや、その行為自体が
もう記憶に乏しいくらいだ。
――しかし唇を重ねても
心のもやもやは
晴れなかった。
前みたいな酔うくらいの
甘い刺激を感じることは
できなかった。

