オバケの駐在所

「……ねぇ、かずひろさん。
いつも仕事が終わって
真っ直ぐ帰ってくる
みたいだけど、
遊んだり飲んできたりしても
いいのよ。
私のことは
気になさらないで。
若いしやりたいことも
多いでしょう?」

「はは、大丈夫ですよ」

義母の持っていたコップに
蜘蛛のオバケが
入りこもうとしていたので、
ゴミをとるふりをして
そいつを手でつかみ
床に落とした。

「こう見えてけっこー
やりたいことやってるんです。
では、仕事があるので
これで。
今日はお手伝いさんも
呼んでいますけど
何かあったら
電話してくださいね」

義母は前髪をわけながら
横に視線をおとし
片手をこめかみにやった。

どことなく申し訳なさそうな
顔をしていたが
俺はかまわず
ふすまを閉めた。

感づかれてはいけない。
変な素振りも
見せてはいけない。

オバケがいようがいまいが、
それはただの
つかみどころのない
ものであるだけで
目的を邪魔する理由には
ならない。

1年……かかったんだ。