オバケの駐在所

「大丈夫ですか?
お義母さん。」

和室に布団をしいて
義母はいつも
横になっているのだが、
この日は体を起こして
遠くを見つめるように
していた。

「かずひろさん、
今日は朝から
台所が騒がしいですね」

白い粉の薬を
オブラートに包み
義母の手に持たせ
いつものように
コップを渡す。

「れいかが味噌汁を
作ってくれたんです。
……少し薄味でしたが」

義母は何も言わず
粉薬をコップの半分の水で
飲みほし、
カーテンの隙間から
射しこんだ朝日を
物憂げに見つめる。

俺はそのカーテンを
半分だけ開けてあげた。

「床ずれはありませんか?
何か用があったら
なんでも言ってくださいね。
遠慮することは
ありませんから。」

「ありがとう。
今は何もないわ。
最近は携帯のゲームで
夢中で遊んでたりするのよ。
それによくしてくれて
嬉しいわ」

そう言って微笑む義母。
取り繕ったような
ぎこちない笑顔ではない。
本心から感謝してくれて
いるのだろう。

義母は一年前、
車の事故で半身不随と
なってしまった。
すでに身寄りがなかった彼女を
俺は家に招き入れた。
そのほうが妻も喜ぶと思ったし
俺が臨床医学に関わる仕事を
していたというのもあった。

それに病院や
介護センターというのは
金がかかるものだから。