それから10日が経った
夕方の黄昏時、
俺ら角ウサギは早いうちに
みたけ山を出て昇仙峡へと
山入りした。
途中のぐねった坂道には、
黄金色にかがやく銀杏や
剥き出しになっている
岩肌など、
天狗が太鼓判を押すほどの
景色が広がっている。
俺らは軽トラの荷台に
内緒で乗り込み、
また人の姿をしては
ロープウェイで頂を目指した。
そして尾根づたいの
山道に入る頃、
そろそろ後ろを
振り向けなくなってくる。
それはさっきまで明るくて
ただの人気のない山道が、
ひとたび日が沈むと
急に得体のしれない者が
道端に入ってくるからだ。
お化けとは
少しニュアンスが違う、
知能ももたない低俗な下級霊。
それが現世の領域を侵す。
影が急に動いたり
横に誰かが
立っていそうだったりと。
ここの山じゃよそ者だから
俺らはなるべくおとなしく
してなければいけないのだが、
「オラオラオラ、邪魔だぁ。
なぁーに見てんだ、ボケェ」
「何メンチきってんだ、お?
死にかけの霊がやんのか、お?」
……とまるで地元の街中を
うろつくヤンキーのように、
ふてぶてしく練り歩く
みたけ山の角ウサギ共。
思うに、相撲に関係ない
ウスやキネを
今回持ってきために、
それを戦いの凶器として
扱うのだろうと
勘違いさせて
しまってるらしく、
やたら殺気だたせて
しまってるのだろう。
ちなみにそれを運んでるのは
俺じゃない。重いからな。

