「ひと月に数回かだけど、
金色のウサギが
夜空に現れるって。
その子は空に浮いたまま
餅を突いているらしくてさ。
会ってみたいよな。
そんな物好きな奴。」

俺も餅は大の好物だ。
だけどこんな右も左も
わからない
暗い寒空のなか、
わざわざ空を飛んでまで
突いたりはしない。
俺はコタツで
のんびりしていたい派だ。

「……はあ、
あなたかつがれてるのよ。
ウサギが空を飛ぶなんて
聞いた事がないもの。
それより相撲の稽古はしてる?
気を抜いてると
ライムにこてんぱんに
されるわよ?
ミントを倒すって
息巻いてるんだから。」

ライムとは高尾山に住む、
黒ウサギの事。

その額にはトナカイのような
枝分かれした鋭い角が
生えていて、
高尾一族の中でも群を抜いて
ひときわでかい。

その昔山に暮らす仙人が、
他の動物にいじめられている
おとなしいウサギを
憐れに思い、
1つだけ身を守る武器を
付け与えた。
それがその角だ。

ただそのまま山へ放つのは
どうにも危ないので、
普段は誰も傷つけないように
角を丸くさせておくよう
ウサギに言い聞かせておく。

しかしそれから時は経ち、
いつしか角ウサギの一族は
仙人の言いつけを破って、
力を自己の欲を満たすために
使うようになる。

食べる物も人間のように、
雑食となり変わり、
肉を噛み切るための鋭い牙も
自ずと生えるようになった。