オバケの駐在所

フライパンほどの大きさの
黒光りを放つ奴は
体の半分以上はある触覚を
右往左往に動かして
修二君の右腕に
しっかりとつかまり
大きなアゴで生気を貪る。

それはそれは
身の毛のよだつ光景。

「しゅ、修二君、
……大丈夫?」

私は数メートル
離れた所から
顔をひきつかせながら
聞いてみる。

「……ん?
なんでそんな
遠くにいんの?

まぁいーけど。
なんか昼くらいから
急に痛みだしたんだ。
……うう、
今は動かす事もできなくて
休んでる。」

……昼から?
しかしなんて恐ろしい
呪いなんだ。

苦悶の表情で
彼は苦しみの
原因である右肩を
がっちりと掴み
遠くを見つめながら
声を絞り出すように呟く。

「……なんで
こーなったんだろ。
もう少しで夢にまで見た
甲子園に行ける
チャンスがくるってのに。
どーしちまったんだろーな
俺の肩は。

見ろよ。
試合まであと1ヶ月だから
ブルペンにはもう
他のバッテリーが
入っちまった。
みんな幸せそうに
練習してら。

俺は試合に出れないまま、
新人のまま、
夢半ばのまま……、
諦めろってよ。

エースなのにさ……。」

気のせいか悔し涙を
浮かべながら
声を震わせている。
グラウンドから
聞こえてくる
練習の掛け声が
遠くの祭り事のように
やけに切なく感じられた。