遙か彼方




彼は前に向き直ると、佐山さんを一度確認して再び私に目を向ける。

佐山さんは彼も一緒に来るのを待っているらしく、そこを動かないでいた。



“戻ってくる”

彼の口が動いた。

声は出さずに私に何かを伝える。

それが私には戻ってくると言ったように見えた。


「じゃあね」

今度は声を出してそう言って片手を挙げた。

私もつられて片手を挙げる。


「行きましょうか」

「あぁ」

そして佐山さんと一緒に、私の居場所からいなくなった。




2人がいなくなって、居心地の悪さが消えたのと同時に寂しさに襲われる。


寂しいのは嫌いだ。

あの日のことを思い出すから。

一人取り残された日を思い出すから。


佐山さんの出現で忘れていた涙が、再び溢れそうになる。



戻ってくるって言ったよね?

絶対言ったよね?