Iの漂流戦士





居間には父親の姿

余裕顔でまだタバコをふかしている



修は包丁を握り締めたまま、父親の顔を見続けた


何の感情も湧かない

あるのは憎しみだけ



『……なんだよ、それ』


やっと修に気付いた父親は、右手に持たれている包丁を見た


今まで何をしても顔色一つ変わらなかったのに、父親の表情がみるみる険しくなっていく



修は一歩、一歩、前に進んだ



『おい、何する気だよ』


後退りする父親を修は冷酷に見下ろしている


迷いはない

迷いなんてない


だってこの憎悪はずっと心の奥底にあったのだから



『やめろ、俺はお前の父親だぞ』


一歩、また一歩と前へ



何も響かない

父親だから苦しかった

父親だから我慢した

でも、もう何も響かない



『……やめろ……やめろ………』


父親は部屋の隅にもたれ掛かり、修から逃げる術を探している



『やめろ…やめてくれ。修』


父親が名前を呼んだ


いつ振りだろう?

そんな事さえ分からないほど久しぶりだ

何の感情も湧かない

それほどまでに、何もかも手遅れだった






---------------グサッ。

鈍い音が部屋に響いた


銀色の包丁は簡単に父親の中に入り、そこから赤い血が絶え間なく流れている



『……修…お前………』


------ドサッ…………


父親は床に大きく倒れた


その体はピクリとも動かない