“逃げる”なんて戸ヶ崎には似合わない言葉だと思った

胸の内を話した戸ヶ崎は、酒の力を借りて修に話し始めた



『俺、地元で暴走族に入っててさ。けっこう上の立場に居たんだ。毎日喧嘩したり、毎日警察に追われたり』



『…………』


『それはそれで楽しかったんだけど、俺がついに警察に捕まって……』


戸ヶ崎の言葉がピタリと止まった

何かを思い出したのか、缶チューハイを一気飲みした


『……そしたら、おふくろが泣きながら俺にビンタしたんだ。それ見た時、すげー悪い事してる気分になって』


『……………』



『もう辞めようって思ったんだ。暴走族やめて、学校もちゃんと行って真面目に生きようって』



修はその話を黙って聞いていた

自分とは全く違う人生だけど、母親の存在が大きかったのは一緒みたいだ




『……それで暴走族は辞められたの?』


修が恐る恐る聞くと、戸ヶ崎は静かに首を横に振った



『あいつら辞めるって言った途端に顔色が変わって。なんか暴力団とも関係してたみたいで家とかにも脅しの電話が来てさ』



『…………』



『……おふくろ、そのせいで倒れちゃって。病院に行ったら言われたよ。お前は親不孝者だって』


戸ヶ崎の手が震えていた

きっと誰にも言えない悩みを1人で抱えていたのだろう



『あいつら今でも俺を探してる。多分見つかったら殺されるかもしれない』


修は慰める事もなだめる事もしなかった


ただやっぱり

この世界は理不尽すぎる