『…枝波は夢とかないのか?』


こんな事ではめげない倉木は、さらに修に質問をした


『そんなの考えた事もない』


修は即答した


これが今どきの子供の答えなのだろうか。倉木は頭を抱えたくなった



『もう帰っていいっすか?満員電車で帰るの嫌なんで』


外はオレンジ色の夕日に包まれ、この時間帯の電車が一番混む




『…あ、おい!枝波!!』


倉木の返事を待たず、スタスタとドアに向かって修は歩いていた


ドアを開け、クルリと顔だけ倉木の方に向けた修はある言葉を残した




『枝波って名字嫌いなんで、明日から名前で呼んで下さい』



---バタンッとドアが閉まり、倉木は再びため息をついた


色々な生徒を見てきたけれど、名字が嫌いだから名前で呼べなんて生徒は居なかった


倉木は職員室から外に出て、タバコに火を点けた


そこには喫煙者の同僚が数人居た


他のクラスにも問題を抱えた生徒が1人や2人居るらしく、

苦笑いを浮かべながら、教員達は雑談している




『なー名字が嫌いってどうゆう意味だと思う?』


倉木は同僚達に問いかけた


『なんですかそれ』


ここに居る教員達はみんな倉木より年下



『わかんねーから聞いてんだろ』


倉木はタバコを口から離し、フーと煙をはいた



『かっこいい名字への憧れとか?』


1人の若い教員が自信満々に言った。ふざけた回答ではあるけれど、なくはない


でもあの言い方は、そんな簡単な事ではない気がする

すると、違う教員がもう一つの案を出した



『名字が嫌いって、それって家族に不満があるって意味じゃないですかね?』