左手が使えないままで右手でキャリーバッグを押して、二度と入りたくなかったメルヘンな眞子の部屋に足を踏み入れる。




「……………やっぱ……頭いたくなるな、ここ…」




昨日と寸分変わらないピンクピンクピンクな部屋にこめかみを押さえてため息を吐く。

それでも時間をかけるのは自分にとっても強引に約束を取り付けられたとは言え待ってる透に対してもあまりよくはない。




「着替えよ…」




ため息と同時に出た小さい呟きで私はようやくバッグに手をかけて着替えを取り出した。

パールホワイトの短めのワンピースに黒い細身のジーンズ。
上から赤いレザーのジャケットを羽織れば良い。

洋服に無頓着な私がお洒落をするなんて…




「"初恋"は忘れられない…か」




誰かが言ってた。

初恋は幾つになっても忘れられないものである。


透は私にとって初恋だったのかもしれない。
私が高校一年の時に二年だった透を好きになったのももう五年も前だ。


忘れよう、忘れよう…そう自分に暗示をかけてたのは四年。

それでも頭の片隅に、今の彼氏といても思い出すのは透の事。

それは忘れられていない証拠なんだと思う。




「おい、早くしろよ。」


「……今行くわよ。」




考えたって何も変わらない。

また小さくため息を吐いてレザーのジャケット、財布や携帯の入ったバッグを持ってメルヘン世界とおさらばした。