現に勇者の一族は、人里離れた山奥に追いやられ、それが原因となり魔王軍に一掃されてしまった。


「魔王亡き今、お前は非常に危うい立場にいる。暫くは英雄として祀られるだろうが、時が経てばお前の存在を邪魔に思う者は出てくるはずだ。英雄にこの国は、世界は救えない」


夜の世界から、虫の音と夜行鳥の鳴き声が聞こえてくる。


沈黙を破るために放たれたそれらの声は、オレオの動揺を鎮めるには至らなかった。


「だったら僕は、なんのために……」


カチャリと何かが外れる音がすると、俯いているオレオの頭に温かい何かが触れた。


顔を上げると、手錠で両手を塞がれていたはずのサイの右手が、オレオの頭を撫でているではないか。


手錠が外れるわけがない。というか、なんでこの人は僕の頭を撫でてるの?


グルグルと頭の中が掻き乱されて、あわわ……と変な声が漏れる始末。


動揺し混乱するオレオ。


傍から見れば、本当に英雄なのか疑いたくなる光景だ。