忘却の勇者


聞こえるはずのない声が、背後からそっと語りかける。


氷刀を構えながら振り向くが、それよりも早くオメガの右腕がレインの喉元を捉えた。


首を絞められたまま壁に叩きつけられ、ギチギチと骨が悲鳴をあげる。


氷刀は叩き付けられた衝撃で手放してしまい、酸素不足の身体では集中力を必要とする魔術を放つことも困難。


オメガは滑らかな皮膚を堪能するように、ほくそ笑みながら一本一本指に少しずつ力を加える。


下衆な笑みに、レインの表情は歪み、頬に脂汗が伝った。


「坊やに面白い話を聞かせてあげよう。どうせ死に逝く定めだが、なにも知らずにあの世へ逝くのはさぞかし寂しいだろうに。あの世で小さな勇者に事の真相を語るが言い」


「ふざ……ける、なっ……!」


「君は知っているかな? 四聖官が生まれた理由。四聖官の真の目的。
知らないだろう。この事実を把握しているのは、私と歴代の四聖官のみだ。
賢者の称号を持つ者が四聖官となった時、在任中の四聖官にある一室へ招かれる。
その場所がどこにあるのか、どのような部屋なのかは私にもわからない。だがその部屋には、ある物が封印されているのだ。
なんだと思う? わかるはずがないか。ただでさえ頭に酸素が回っていないのだからな。
答えは実に単純明快。喪失魔術が書かれた禁書さ。
九十九の禁書の内、実在が確認されている七つの禁書のその一冊。
大賢者が最後に作り出した魔術でありながら、大賢者自らが封印した最強の魔術。