男はその場から一歩も動かず、つぶても彼の頬を掠めただけだった。
「覚えてない? ふざけるなっ! 自ら手をかけた人達を忘れるわけがないだろ!」
「だから忘れたと言っているだろう。聞き分けの悪い子だ。人の命など私にとっては何の意味もない。記憶に留める価値すらない代物だ。
仮に私が君の家族を殺したと仮定しよう。だったら君は何を望む?
謝罪の言葉? なんなら土下座もして見せようか?
『君の大切な人を殺してしまってゴメンナサイ(笑)』
『もう二度としないので許して下さい(笑)』
『お望みと有らば死んでお詫びをいたします(笑)』
それでいいのか? そんなわけなかろう。全く無意味。火に油を注ぐだけだ。
私が謝罪をした所で、坊やはそんなものを望んではいない。なぜなら私は罪の意識など微塵も感じていないのだから。
空疎な言葉ほど意味のないものはない。無論坊やも理解しているだろう。
では君が望む物はなにか? 当てて見せようか?
自らの手で仇を討つ。つまり私を殺すことだ。
さてここで今一度考えてみよう。坊やが私を殺したと仮定する。イメージしてみたまえ。
君はそれで浮かばれるのか? 歓喜に沸き、心の靄を払うことが出来るのか?
答えはNOだろう。私が死んだところで、君の家族は戻ってきやしない。寧ろマイナス要素の方が多いのではないか?
君の話を聞くに、坊やは私の復讐を糧に今まで生きてきたのだろう。なんとも美しい家族愛だ。感服致す。
その復讐相手がいなくなってしまったらどうだ? 君は生きる目的を失うことになる。
家族を失い、目的を失い、憎き相手もいなくなる。坊やに救いなど訪れない。絶対に訪れない。断言してやろう。
だが私なら、神と同等の力を持つ私なら、君を救ってやることもできる。
そう、死だ。君が死ねばいい。
死は平等に永遠の安らぎを与える。坊やの心の奥底に眠る深い闇をも消え去り、全てを無に還す。
素晴らしい! 実に素晴らしい! どうだ、死に望みを抱いてきただろう?
せめてもの情けだ。直接私が手を下して進ぜよう。
人を殺めるのは得意なのでな、苦しめずにあの世へ送ってくれる」


