忘却の勇者


「旅人だと言ったが、魔物との戦闘経験はあるか?」


なにを言いだすんだろう?


不思議そうに二人は主人の顔を見つめる。


オレオは「一応ありますけど……」と歯切れが悪く答えるが、主人は口元に不吉な笑みを浮かべた。


この顔は、また良からぬことを考えている。


長年この店で住み込みとして働いているマリは直感したが、今会ったばかりのオレオは小首を傾げるだけだった。


「実はな、オレオ君に倒してほしい魔物がいるんだ」


「店長!?」


驚きの声をあげる。


マリの声量に店長は一瞬肩を震わせたが、両手を前に出して「まあまあ」というジェスチャーをし、マリを鎮めようとした。


それでもマリは納得しない。するわけがない。