「あの子はね、アレを置いて行ったんだよ。え~と……」
祖母がキョロキョロと辺りを見回すと、母がそっと祖母に何かを差し出した。
「ほら、これでしょう」
「ああ、これだ」
祖母が受け取った青い紐を手にして、満足したように頷く。
祖母が彼に見せる様に皺々の手を伸ばす。
それは……青い首輪だった。
私が小学生の頃、お小遣いをはたいて買ったネロの首輪。
ネロは姿を消すまで、そのボロボロの首輪を付けていた。
古くなってしまった首輪を変えようとしたのに、ネロはそれを嫌がり、そのボロボロの青い首輪をいつも誇らしげに巻いていた。
金具の部分には鈴が付いていたはずだったが、取れてしまったのかその姿は見つからない。
ネロが姿を消したその日、この青い首輪が家の玄関の前に落ちていた。
父は多分古くなって取れてしまったんだろうと言ったが、祖母は《ネロが置いて行ったのよ》と譲らなかった。



