ネロは私が生まれる前からこの家にいた猫だった。
どこからか迷い込み、そのまま家で飼われる様になった野良猫。
いつもツンと素っ気なく、でも優しい猫だった。
私はいつもネロと一緒だった。
一人っ子だったので、家にいる時はいつもネロと遊んでいた。
夜寝る時はいつも私に寄り添い、私はネロの温もりを感じて眠った。
そんな生活がずっと続き、私が二十歳の誕生日を迎えた時だった。
ネロが……家に帰って来なくなった。
すでに二十年は生きているネロは雄猫の中でもかなり長寿で、両親は《もう寿命だったのよ》と悲しそうに笑った。
猫は死ぬ時は人前から去り、静かに一人きりで死んでいくと聞いた事がある。
…… 悲しかった。
人生の大半を私はネロと生きてきた。
悲しい時は黄緑の円らな瞳で私を見上げザラザラの舌で私の涙を拭ってくれたし、私が寂しい時は静かにただ傍に居てくれた。
ネロは私にとって掛け替えのない家族であり……心の支えだった。



