最後にシャワーを浴びて、タオルを巻き直して、脱衣場に行くためのドアを開けた。
……その途端
『ジジジジジッッ!!!』
「ひいっっ!?」
脱衣場から聞こえた独特の音に、私は肩を震わせて温泉に戻り、ドアを閉めた。
危うく濡れたタイルで滑りそうになりながら。
……“ヤツ”だ。
あの羽の擦れる音。
しかもドアは透明だから見える。
電気近くを飛び回る茶色い物体。
「せせせ蝉…」
そう、あれとは蝉のこと。
私が虫の中でも一番苦手な。
苦手なモノが多い私だけど、ゴキブリよりもコオロギよりもお化けよりも語尾のばし野郎よりも
何より恐い。
顔とか、体とか、羽とか、音とか。
本当に本当に恐い。
「うっ、ズッ」
泣いてしまうくらい。
「ど……しよ」
蝉があそこにいる限り私は脱衣場には行けない。
着替えも携帯も、全部脱衣場にある。
助けも呼べない。
「あ……」
脱衣場にある時計が見えて気付いた。
今の時間は9時55分。
なんだ、良かった。
10時までなんだから管理人さんが来てくれるじゃんっ。
そしたらヤツを処理してもらって、解決!
待ってる5分間は、やっぱり飛ぶ音が恐いから耳を塞ぎながら湯船に浸かった。



