【第112回『神杯』調査報告書】

 私立晴天高等高校学校にて、白矢久音の手により完成形となった“鍵”の奪取に成功。灰山幸四郎と共に日本の第十番アジトへと帰還。同日、23:00、日本の第一番アジトへ“鍵”を搬送。



 バインダーで止められている書類の文面を淡々と読み上げる女性秘書。

 黒縁の大きい眼鏡に、飾り気はないが、艶やかなストレートで、肩下まで綺麗に伸びている。

 直立した姿勢と、切れ長の目は、いかにも「仕事のできる女」をイメージさせる。

 実際、その通りであって、彼女は、彼女が今、目の前で報告書を読み聞かせている人物にとって、欠かせない人材であることには間違いない。


 ルミネ=クロムネンボ。


 女性秘書が報告書を読み聞かせているイタリア人の男の名だ。

 顔立ちは、剛健実質を思わせ、静かだが、秘めた迫力のある眼力が印象的だ。短く切り揃えれた灰色の髪に綺麗に剃られた髭が、四十代後半という実年齢よりも若々しく見える。

「それと、蒼咲総合病院院長から甲斐浜沙恵美外科医の出張帰還の申請が出ていますが、いかがなさいますか?」

「“鍵”が手に入った時点で、天羽空兎を手元に置く理由はなくなった。その外科医のストレスが溜まらないうちに帰還させておけ」

「はい、そのように……報告は以上です、ルミネ様」

 女性秘書が報告を終えると、ルミネは閉じていた目を開いた。目の前のデスクには報告にあった“蒼い鍵”が“奇跡の起こし方”ととう本と一緒に置かれている。

「……それで、“鍵”を用いての封印されたページの解放方法は解明できたのか?」

「いえ、それはまだ……昨日の今日ですから無理もないかと……」

 その瞬間、ルミネの鋭い眼光が女性秘書を射抜き、彼女は怯んだ。つい、早口になって言葉を付け足す。

「や、やはり我々だけではこの“本”のページを封じている魔法に関する知識は不足しています」

 そう言われ、ルミネの眼光がいくらか和らぐが、女性秘書の心労が和らぐことはなかった。

 その心労を抱えたまま、女性秘書が進言を続ける。