来た道を辿って、元の湖畔に帰ると、先程まで濃かった霧も少しは晴れて、視界が見えやすくなっていた。

 陽の光に照らされて、程よく霧がかった水面がキラキラと光っている幻想的な湖の風景。

 男子二人が思わず見惚れるそんな風景に、シルエットが一つ。

タイトルを付けるとすれば「霧の湖で水浴びをする少女」だろうか。とにかく女性独特の曲線美が霧に見え隠れしているそれに、思春期の男達の目は意識せずともロックオンしてしまった。

 だが、しかし直後、仙太の背筋に走る悪寒。覗きが良くないという道徳的理性以前より、生命の危険から、すぐにそれから目を背けるべきだと警鐘を鳴らした。

(まずい!)

 クルッと回れ右、いや、せめて首を横に向けるだけでも良かったのだろうが、今ひとつ遅かった。

「くぉらぁ! このドスケベせっちんっっ!」

 霧に浮かぶシルエットが、力一杯の投球フォームを見せたかと思えば、ビュンという風を切る音が仙太の耳をつんざく。

飛んできたのは石だった。

 幸いにも石は、仙太の頬を掠りもせずに通り過ぎただけに終わり、肉体的ダメージは被らなかったものの、戦慄という形で充分に精神的ダメージを受けたのは、血の気がひいた彼の顔から伺える。

(脅しにしてはやり過ぎだろ・・・・・・)

 仙太が冷や汗を流していると、霧の中からバスタオルを巻いた空兎が怒りの形相で現れた。

「ちっ、外したか」

(当てるつもりだったのか!?)

 殺意のこもった彼女の目が、仙太の背筋を凍らせた。

「つーか、これは事故だ! それに霧で全然見えなかったし!」

 慌てて仙太は弁明するも、頭に血の昇りきった空兎には聞く耳を持たない。

「煩悩に負けた人の言葉なんかに何の力もないわ! 情状酌量の余地なし! 大人しく石に当たるか、アタシの蹴りを喰らうのよ!」

 怒りからか、水浴びを覗かれた恥じらいからか、空兎は、顔を真っ赤にして仙太に反論の間を与えず捲し立てる。

 そんな二人の様子を、クヲンは、キョトンとした顔で見めていると、程なくしてその口を大きく開いた。

「あっはははは!」

 それは、爆笑という表現が似合うほどの笑い声だった。それまでお互いを見ていた空兎と仙太の目が、クヲンに移行する。