出会いの高速道路

「ご縁がありますね」

彼女…いや、彼はニッコリ微笑んだ。

「キミ…わざとだろう? 今度はまさか、会社に復讐しに来たんじゃないだろうな?」

「普通に就職ですよ。ホラ、僕の家族、今大変なことになっていますから」

父親は発狂した母親の看病をしているとか言っていたな。

「だから大学院を辞めて、就職したんです。本当は教師になりたかったんですけどね。今は手っ取り早く、稼ぎたいので」

肩を竦めて苦笑する彼を見て、俺は深くため息をついた。

「まっ、これからよろしくな。キミは根性があるみたいだから、ここの仕事は合うと思うよ」

「僕もそう思います。よろしくお願いします、先輩」

彼は笑顔で俺と握手をした。



―そこで俺は気付いた。

ああ、俺ももうまともじゃないんだなってことに。

警察に彼の存在を知らせず、彼を受け入れてしまっている。

だがそれもまた、正気の成せることなのではないかと、俺は思ってしまう。

正気と狂気。

表の顔と、裏の顔。

俺とアイツ、そして彼が持っている二つの顔は、案外誰もが持つ顔なのではないのかと…。