「だってさ、10年前にも同じ事言ってくれてたなって思って」


…?
そうだったっけ?


「好きだったよ、あの頃の勇。…あ、いや、今も好きだけど…」


結衣の言う“好き”は、幸田を“好き”との意味と違うんだろうな。


「勇は、私の初恋だから」


結衣はそう言って笑った。俺も、なんだか笑顔になれた。


「ほら!行ってこいよ。他の女に取られんなよ。」


俺は結衣の背中を押した。結衣はまだ躊躇いがあるようで、キョロキョロと辺りを見わたして、キョドッていた。


「お前なら大丈夫だよ。」


そう言って結衣に手を振ると、結衣は“ありがとう”と言って、会場の方に向かった。


「初恋…ね。」


てことは、両思いだった時期があったって事か。
少し感傷的になる。ベンチに再び座り、鼻をすする。


「いる?」


どこからか伸ばされた手には、ハンカチが握られていた。
手の主は、圭子だった。


「おま…っ!いつからそこに?」


「結構前から…」


って事は、さっきの聞かれてたんか…。まあいいけど。


「かっこよかったよ」


照れくさそうに、圭子が言うと、俺まで照れてしまった。


『おれがそばにいるからな。ずっと、いっしょにいるからな。おまえを泣かすやつは、おれがゆるさないから』


もう、傍にはいられないかもしれないけれど、結衣がもう、泣かない事だけ、願うから――…



その瞬間、白い雪が、ふわりと、肩に落ちた。






●END●