「違うの…」
少女が泣きそうな声を出す。
「何が?」
「何もかも思い出せないの…」
少女は日和の服を握りながら不安そうな顔をした。
その姿はまるで、迷子の子供のようだった。
「何もかも…?」
冷たかった日和の口調が元に戻る。
「私…覚えてないの」
少女の目がウルウルする。
「…それって…」
もしかして…―
「記憶喪失?」
困惑しながら日和は尋ねた。
「そうなの!?」
パニくる少女。
「自分のことだろ!?」
「だから…何も分からないの…」
「そっ…そうか」
「気が付いたらここに居たの」
少女は膝を抱える。
「名前も覚えてないの?」
「名前…?」
「自分の名前」
「愛里子…」
少女は少し考えると、そう口にした。
「ありす?」
聞き返す日和。
「愛する里の子って書いて…愛里子」
「愛里子…かぁ…」
彼女にとても似合う名前を聞いて、日和は思わず愛里子の顔を見入ってしまった。
でかい目だな…―
人形みてぇ…―
ちょっと好みかも…―
「名字は…?」

