「たましい…?」
「難しくて解らんか?」
「愛里子も別のものだったんだね」
「遠い昔の話だけどな」
愛里子はガラスの向こうの空をじっと見ていた。
「…ごめんなさい。遅くなりました」
事務所のドアがパタンと閉まる。
弥生は慌ててデスクに付いた。
「大丈夫ですか?息、荒いですよ」
「大丈夫。…走ってきたから」
「……?」
「あの…今夜少し抜けてもいいかな?今、急いで描けるとこまで描くから」
「はぁ、私は構いませんけど」
「ありがとう」
弥生は机の角にメガネを置いて、真っ白な原稿用紙を見つめた。
「先生、夜もデートですか?」
若いアシスタントが嫌味っぽく尋ねる。
「……」
沈黙する弥生と事務所。
「そう思いたければ勝手に思えばいいわ。ただ、仕事は手を抜きませんから」
強い口調。
そこに居る誰もが聞いたことのない弥生の威厳のある言葉だった。
丸めていた背中をスッと伸ばし、ペンを握る。
その姿は仕事に生きる女性そのものだった。
生まれ変わる…―

