「だ、ダメだよ。こんなところで……」


「……もう遅せぇよ」


抱き締める力が強くなる。


……楓クン、どういうつもりなの?


抱き締められていても、あたしはなぜか冷静だった。


あたしは楓クンの彼女ではない。


その前に“好き”なんて言われてもない。


なのに、どうしてこんなことするの?



――楓クンの考えてること、全然分かんないよ。


瞬間、涙腺が緩んで涙がポロポロと溢れ出した。


「……う…っ」


楓クンはあたしが泣いているのに気づくと、カラダを離してあたしの顔を心配そうに覗き込んだ。


「……どうした?」


そう聞かれたけど答えることは出来なくて。

余計に切なくなる。


「言ってごらん?」


でもあたしの決意は一瞬にして揺らいだ。


「あ、あたし、楓クンとどういう関係なのか…分からなくて…っ…楓クンの気持ちも、分からな……」


「そんなの、もう分かってんだろ?」


あたしの言葉を楓クンが遮った。


「えっ……」


すると楓クンは意地悪に微笑み、あたしに顔を近づけて


――チュッ


触れるだけの優しいキスをした。