「そんなこと、もう気にしてないから大丈夫だよ……?」


あたしが愛チャンにそっと触れると、愛チャンはゆっくり顔を上げて切なげに微笑んだ。


「楓クンと絶対幸せになってね」


「じゃないと……」と愛チャンは続ける。


「絶対に許さないから」


不敵に笑みを浮かべると愛チャンは背を向けて歩き出した。


愛チャン……ありがとう。


涙を浮かべながら、あたしは心の中でそっと呟いた。


「穂香の泣き虫」


「えっ……?」


その声で、ぞろぞろと立ち去って行く野次馬の足と、あたしの思考が止まる。


あたしの目の前にいる人物を見た瞬間、野次馬の女の子達は一斉に黄色い悲鳴を上げた。


「きゃあああああ!」


「爽様ぁあああ!」


「今日も素敵ぃいい」


そこにいたのは、爽やかなシトラスと香りを漂わさせる爽の姿だった。


「そ、爽……」


昨日、あんなことがあったせいか、なんとなく気まずくて俯いた。


そんなあたしを見て、苦笑いを浮かべると爽は黒髪をかき上げながら、口を開いた。