「負け犬なんて言われて黙ってるわけねぇだろ」


「しつこいなぁ。爽は」


呆れたように笑う楓だけど、目は全然笑ってない……。


ふと周りを見ると、近くにいた女の子達がザワザワとざわめきだした。


「どうしたのかなぁ~?」


「王子様同士のケンカぁ?」


「きゃああっ! カッコいいぃいい~」


クラスだけでなく、違うクラスの女の子達もドアから教室を覗き込んでキャーキャー騒いでいた。


こんな雰囲気の中でケンカなんかしたら、絶対ヤバいよね……


「また後でケリつけに来てやるよ」


あたしの心を悟ったように爽は静かに言い放った。


「その前に、尻尾丸めて逃げるんじゃねぇの?」


爽の挑発に楓がのらないわけがない。


楓がそう言うと、爽はバカにしたように鼻で笑ってあたしに視線を向けた。


「じゃ、またな?」


微笑みながら、誰にも聞こえないくらい小さな声であたしにそう囁くと、爽は背中を向けて歩き出した。