あれからというもの、午後の授業も上の空で先生に何回睨まれたかわからない。


――『二兎追うものは一兎をも得ず、よ?』


あーちゃんに言われた言葉が、頭の中で何度もリピートされる。


あたしは、一体どうすればいいんだろう……


このままじゃ、いけないことくらいわかってる。


だけど、あたし自身の本当の気持ちにまだたどり着けてない。



「ほ……」


隣でした声に、ふと耳を傾ける。


きっとそれは、隣の席で寝ている楓から発されたもの。


だけど、楓を見ることが出来なかった。


見たら、目が合ってしまうかもしれないと思ったから……。


爽からあんな話を聞いた後じゃ、なんとなく気まずい。


「…ほ、…か…」


右耳に神経を集中させる。

それはやがて確信へと変わった。


――グイッ


楓があたしの手首を強く握って、自分の方に引いた。


その弾みで、あたしは楓の方に倒れ込むカタチになる。


ひゃあああああ。


こんなことしたら、周りにバレちゃうよぉ……。


心の中で甘い悲鳴をあげた。


ドクンッ……


激しく脈を打つ心臓は、楓にまで聞こえちゃうんじゃないかって思うくらいうるさくて……。