「悪りぃ悪りぃ」


楓はそう言って柚月の頭を撫でた。


柚月は顔を真っ赤にして、照れているようだ。


そう……。


柚月は楓のことが好きなんだ。


小学校の頃からずっと。


楓もきっと、柚月が好きだ。


あの顔を見れば、一目瞭然。


他の女には見せたこともない“恋してる瞳”。


そんなふたりを、唇を噛み締めながらずっと見てきた。


楓は俺の幼なじみだし。


柚月は俺の好きな女。


だから、楓にならこの思いを譲ってもいいと思ってた。



――だけど、ある日。


それは、どしゃ降りの雨の日だった。


雨でびしょ濡れになった柚月は、目に涙を浮かべて俺の家を訪ねてきた。


「……楓に振られちゃった」


今にも崩れてしまいそうな弱々しい体を見て、一気に苛立ちが込み上げてきた。


……はぁ?


ありえねぇだろ。


あんだけ優しくしといて。


柚月の気持ち、弄んでんじゃねぇよ。


……俺は家を飛び出した。


傘も持たずに。


雨に濡れるのなんて気にも止めなかった。







「……どうしたんだよ?」


ついたのは、楓の家。


玄関から出てきたのは、脳天気にあくびなんてしているヤツ。


俺の怒りは頂点に達した。