「爽……」


黒髪をなびかせながら、こっちへ歩いてくる爽の姿だった。


「ちょっと話あんだけど」


爽はあたしの前まで来ると真剣にあたしを見つめた。


その表情からは何も読み取ることが出来なくて。


あたしはただ、コクンと頷くことしか出来なかった。


「南、悪りぃけど、穂香借りる」


爽がそう言うと、あーちゃんはニコッと微笑んで


「どうぞ」

と、言った。


不意にあーちゃんを見ると、あーちゃんは“大丈夫”と言わんばかりに大きく頷いてくれた。


それだけで心強くなる。


あーちゃんに手を振ったあたしは、歩き出した爽の後をついていく。


爽の背中はいつもより頼もしく見えて。


あたしの緊張は徐々に高まっていった。








連れて来られたのは体育館裏。


昼休みだと言うのに、誰の声も聞こえない。


まるで、あたし達しかいないみたい……。


ふと、そんなことを考えていた。


「……昨日、言おうとしたこと」


「えっ?」


誰もいない空間に、爽とあたしの声だけが響く。