「穂香…好きだ」


ブラウンの瞳を細めてあたしに微笑む。


嬉しいはずなのに、素直に喜ぶことが出来ないのはどうしてだろう……。


――“彼”の笑顔が浮かんだ。


……あたしは楓が好きなのに。


それなのに……


どうしてこんなに胸が痛むの?


「お前…なんかあったろ?」


「へっ?」


楓の突然の言葉に驚いた。


怪訝そうにあたしを見つめる楓は、あたしが言わなくてもきっと、全てを見透かしてると思う。


「な、なにもないよ」


だけど、あたしはそう答えることしか出来なかった。


「ふーん」


すると楓はニヤリと妖しい笑みを浮かべてあたしに顔を近づけてくる。


「……まぁ、でも?」


耳にかかる吐息に体温がどんどん上昇していく。


「穂香は誰にも渡さねぇから」


それは“彼”への宣戦布告のように聞こえた。


「俺のものって印」


そう言って、あたしの胸元についている印を指で優しくなぞった。


――ドキンッ


それだけであたしの心臓は加速する。


「絶対なくすなよ?」


楓がつけた印は、甘い熱を帯びたまま浴衣に隠れた。