痛みはとっても愛しいもので。


あたしは全身で楓の温もりを感じた。


「……穂香」


楓があたしの髪を撫でる。


それだけであたしは、毛先まで神経が通ってるかのように、胸が音をたてる。


「誰にも渡さねぇ……」


切なそうに楓が呟いた言葉は、あたしを切なくさせた。


「楓…もう時間……」


気づけば、11時を回っていた。


もうすぐ点呼の先生も来るし、瀬川クンも戻ってくるだろう。


甘い時間のタイムリミットも迫っていた。


「……無理」


あたしの髪を撫でていた手が止まる。


「今夜は帰さない」


あたしを見つめるその瞳は真剣だった。


「だ、だめだよっ! 瀬川クンだって戻って来るし……」


「そんなこと言ったって離してやんねぇよ?」


そう言って悪戯に微笑む楓はどこか挑発的で。


「だけど……」


「隠す必要なんてねぇだろ?」


髪を撫でていた手があたしの頬へと移動した。


楓に触られている右頬だけが火照りだす。