「あん時さ……」


「……へっ?」


楓はあたしを抱き締めたまま、静かに口を開いた。


楓の吐息があたしの耳を掠めて、なんだかくすぐったい。


「俺が桜田を抱き締めた時、嬉しそうにしてた理由、教えてやろうか?」


そ、そりゃ教えて欲しいけど……


反面、怖くもある。


“桜田がいい抱き心地だったから”なんて言われたらどうしよう……。


――恋って不思議。


好きな人のことを考えると、胸がいっぱいになる。

幸せな気持ちになれる。


だけど、悲しくなる時もなる。

悪い妄想が止まらなくなってしまう。


本当、不思議だよ……。


「一回しか言わねぇからな?」


「う、うん……」


楓の力が一層強くなる。


「お前、俺が桜田のこと抱き締めた時、妬いてたろ?」


えっ……

妬いてた?


見てもないのにどうしてわかるんだろう……。


すると、楓は溶けちゃうくらい甘い言葉をあたしの耳元で囁いた。


「それが、すっげぇ嬉しかった……」


楓……

嬉しいだなんて、あたしにはもったいない言葉だよ……。