――グイッ


楓はあたしを力強く抱き締めた。


楓のシャツに染み付いた彼女の香水の香りがあたしの頬にぴたりとくっついている。


「やめて……っ!」

楓の胸板を強く押して、あたしは楓の腕から離れた。


「……んだよ」


不機嫌そうにあたしを見つめる楓。


「……そんなことしないでっ!」


「機嫌悪りぃな?」


機嫌悪りぃなって……


愛チャンを抱き締めた後であたしとこんなことするなんて、矛盾してるよ……。


楓と愛チャンの抱き合う姿が、頭をよぎる。

胸がギュッと締め付けられた。


あたしが顔を上げると、楓と目があった。


すると楓は「はぁ」とため息をついて


「穂香、ワケわかんねぇよ……」


切なそうにそう呟いた。




――ガタンッ


屋上の扉が虚しくも閉まった。

ワケわからないのは楓のほうだよ……。


どうしてあんなこと……

「………っ…」


……なんでだろう。

あたしは小さい頃から、滅多に泣くことはなかった。


でも、どうして……

どうして、楓のことになるとこんなに涙が溢れてくるの……?


自分で自分がわからなくなる。


あたしは恥ずかしさも捨てて、子供みたいに泣きじゃくった。