ウェルカムアワーズ

「この学校の前身は、明治時代の商館なんだ。形から入るタイプだった当主の趣味が顕著に現れた、ヴェネツィア風の造り。外国かぶれの華族がおもしろがって始めた貿易業が成功してね。余裕ができた頃に、子息の教育が絡んできて、学校などにしてしまった」


 広い学校だった。門の前に立ったときには、こんなに広いなんてわからない。どっちかと言うと、こじんまりした感じだって思っていた。
 

ここを出発点にしよう、と松宮くんが誘導してくれた先は、中庭と呼ばれている場所。
右手に本館・あるいは旧校舎、左手に新館が見えている。

学校の前は、バスも通る大きな道だというのに、ちっとも車の音は聞こえない。どれくらい奥に入ったんだろう、私は。


 ちょっとした公園くらいはあるスペースのほとんど中央に、大きな木が立っていた。

その木の下まで進んで、校舎を見上げながら、ガイドさんみたいな松宮くんは続ける。