ウェルカムアワーズ

 ――走り出したはずの私は、ちっとも前に進めなかった。右の手首を、松宮くんの手がつかんでたから。なにこれ、なんで?

「ちょっと、こっち」


 ずるずると、私は校舎の中に引き戻された。自分の身に何が起きているのかわからないこんな時でも、周りにはたくさんの人がいる、なんてことを考えてる。

人。帰る人たち。私だって帰りたい。家に帰りたいのに。

「なに、どこ行くの?」


「かばん、持ってくる。オレも一緒に帰るから」

「なにもっ、私が一緒に行かなくてもいいじゃない。ここで待ってる、それでいいでしょ」


「あんまり」

 なにを言ったってムダで、足は止まらない。だいたい、手が離れない。なんでよ。


「あんまり良くないな、それ。葉月ちゃん、オレのこと捨てて帰りそうだし」