「キミは…ここにはずっといられないのかな?」

「えっ…」

思いがけない言葉に、思わず足が止まる。

彼は真っ直ぐに、真剣な眼差しでわたしを見ていた。

「ずっと…はムリよ。わたしは今の生活を捨てられない。わたしを呼ぶ人達がいる限り、わたしは今のわたしを捨てるつもりはないわ」

きっぱりと言った言葉に、自分で驚いた。

わたし、何故こんな言葉を…?

でも…この言葉を言ったことがある?

ずっと昔、この桜の森で…。

「…そっか。じゃあ仕方ないね」

彼が歩き出したので、わたしも慌てて付いていった。

その後、特に会話は無く、桜の森を抜け、あの大きな桜の木にたどり着いた。

「ここまで来たら、大丈夫?」

「あっ、うん。ありがとう」

「ここを真っ直ぐ下れば、バス停に一直線だから」

「そう…なんだ」

来た時はいろいろな場所をウロウロしていたから、バス停から離れた場所だと思っていた。

「ねぇ…。来年も会ってくれる?」

わたしは桜の木の下で、彼の眼を真っ直ぐ見つめた。

「…キミが望むなら。オレはずっとここにいるから」

彼は切なそうにわたしの目を見つめ返し、そっと頬に触れた。

…その手の感触には、どこか覚えがあった。

「あっ、枝が欲しいんだったよね」

彼の手はわたしから離れ、桜の枝に伸びた。

スッと撫でただけなのに、枝は彼の手の中にあった。

「何で…?」

「はい」

彼に枝を渡され、わたしは呆然としたまま受け取った。

「それじゃあ」

彼は元来た道に戻っていく。

その時、急に強い風がふいた!

「きゃっ…!」

風が運んできた花びらで、彼の姿が見えなくなる!

けれど風には勝てず、わたしは思いっきり目をつぶった。

…しばらくして目を開けた時、彼の姿は消えていた。