人に、ぶつかってしまった。

「ごっごめんなさい! 慌てたもので…」

「ううん。オレの方こそ、ちょっとぼ~っとしてたから」

顔を上げると、わたしとそう歳が変わらない青年が目の前にいた。

人がいたことに、心底ほっとした。

「あっあのね、ちょっと聞きたいんだけど…」

「うん?」

「バス亭に行きたいの。道、分かるかな?」

「分かるよ。教えてあげる。一緒に行こうか?」

「ありがとう!」

これで一安心。

わたしは彼と一緒に歩き出した。

途中、いろいろな話をした。

彼も昔ここにいて、懐かしくなって来たらしい。

「春休みを利用して来たんだ。まさかオレの他にも誰かいるとは思わなかったけど」

「わたしも。でも安心した。何せ迷子になってたから」

「迷子ねぇ。気をつけないとダメだよ。この桜の森は、人を呑みこむって言われているんだから」

「あっ、それお祖母ちゃんにも言われた。確かにちょっと、今となると怖いわね」

風も冷たくなってきた。

桜の舞い散る花びらが、視界を何度も埋め尽くす。

「でも…不思議と帰れるという自信は揺るがないのよね。あなたがいてくれるからかな?」

「…どうだろう? オレはちょっと自信ないよ。無事にキミを送り届けることができるかどうか」

そうは言うけど、彼の足は迷うことなく進んでいる。

「ここには詳しいんじゃないの?」

「詳しいよ。ずっとここにいるからね」

「じゃあわたしとも会ったこと、あるのかな? 10年前まで、ここに住んでいたから」

「う~ん…」

彼はじっとわたしの顔を見つめた。

「…ちょっと見たことがある気がするなぁ。もしかしたら会っていたかもね」

「だと良いわね。わたし、来年も来るつもりだから、良かったら一緒に見て回らない?」