「一つ、お願いを聞いてもらっていいですか?」

「何だ?」

「4月1日、エイプリルフールに言ってほしい言葉があるんです」

「…お前、いい加減にしろよ」

目の前にいる彼は、うんざりした表情でため息をつく。

「俺、お前のこと、好きじゃない」

「知っていますよ?」

あなたが僕のことを嫌っていることぐらい、分かっている。

それだけ近くにいるから。

「なら諦めろ」

「…別にまだ、何も言ってないじゃないですか」

「予想がつくんだよ。俺はお前のことが好きじゃない。ならわざわざウソをついて良い日に言ってほしい言葉なんて、一つしかないだろう」

相変わらず妙なところで勘が働く。

「いいじゃないですか。たった一言なんですから」

「イ・ヤ・だ」

「一瞬ですよ?」

「断る」

頑固だなぁ。

でもまあそんなところも…。

「おいっ! 今、変なこと考えなかったか?」

…思うことぐらい、許してほしい。

「いえ、別に」

「答えるのが一瞬遅れたな?」

「気のせいですよ。それより一応、考えておいてくださいね。エイプリルフールのこと」

「お前な…。…そもそもその言葉を俺がお前に言ったら、どうなるんだ?」

「ウソでも良いんです。あなたの口から言ってほしい言葉ですから。その一言さえあれば、もう何もいりません」

…と言うのは、半分ウソだった。