するとその時、ガタという音がして、ひとりの男性がカウンターの席から立ちあがった。


「香純さん、オレそろそろ仕事戻るわ」


そう言って、帽子を目深にかぶった身体の大きなワイルド系の男の人は、小銭を数枚カウンターの上に置いた。


……どこかで見た。


「あっ……片田さん」


夏休み前に1度会ったっきりだけど、思いだした。


確か、当麻くんやお兄ちゃんが、そう呼んでたよね?


けど、私とは面識がないわけで……。


なのに、思わずそう言ってしまい、片田さんは一瞬鋭い視線を私へと向けた。


「……え?」


けどすぐに、目尻にくっきりと皺をつくり、優しそうに微笑んでくれた。


「あぁ……もしかして、当麻の?」


『当麻の彼女』って言ってくれようとしたのかな?