やがて神(しん)火(か)が遠ざかるとゼウスが、
「では、一月後迄」
 と解散を宣言した。
 天使達は、各々(おのおの)の任地に帰還(きかん)していく。オセアニアの天使ネシアが、見送り役だった。
「サタンよ、宜しく」
 最後に飛び発たんとしているサタンに、ネシアが低頭(ていとう)した。
 サタンは内心ズタズタになる程ショックに打ちひしがれていたが、忠実な神の使いたる存在を、必死に保たんとしていた。
「分かっている」
 サタンは美(び)翼(よく)を広げ、南極への帰路へ飛翔(ひしょう)した。眼下の青い海洋(かいよう)を眺望(ちょうぼう)しつつも脳裡(のうり)では、
(お前は真、我が子を殺せるのか?超人はお前を神と、敬慕しているのだぞ)
 と自問していた。
 サタンの心中には晴れる事の無い迷(めい)雲(うん)が、拡大していく一方であった。