「凶悪で残忍な生物とは、他ならぬ人間ではないか。超人は確かに、父上の造物(ぞうぶつ)ではない。併し超人は、現に生きている。万物(ばんぶつ)の霊長(れいちょう)という事になっている人間よりも優れた、大霊長類として。弱肉強食は、自然の摂理(せつり)である。我々はその法則を、破る事はできない」
「我々は人間に地球の統治を任せる方針で、是迄人間に知恵を授けてきた。人間ならば恐竜と違って、神界(しんかい)に近い共同体を造りだせる、と確信しているからだ。これは、父上の神意(しんい)でもある」
 ミカエルとサタンは真向より対峙(たいじ)した。他の天使は固唾(かたず)を呑(の)み、両雄を見守っている。
「それは、人間を買被(かいかぶ)り過ぎだ。超人こそその任に堪え得る、唯一(ゆいいつ)の生物なのだ」
 ミカエルとサタンの討論は、
「人間と超人のどちらが、神世に比肩(ひけん)できる社会を創建できるか」
 という次元(じげん)に移行した。
 ここで、ミカエル以外の天使からも、超人達の行状(ぎょうじょう)報告がなされた。超人は彼方(あち)此方(こち)で食人(しょくじん)し、人間の怨嗟(えんさ)の的(まと)となっている。それに人間が敵(かな)わない特殊能力を有しているので、このまま超人が増加していけば、遠からず人間は超人によって絶滅、若しくは家畜化される危険があった。何しろ人肉は、超人にとって御馳走なのである。
 サタンは超人の人肉(じんにく)嗜好(しこう)について、
「人間だって、他の動物を食しているではないか。人間が牛や豚を食らう様に、超人も動物の一種として、人間を食べている。超人に人間を喰うなと言うのは、人間に牛等を食してはいけない、と言っているのと同じだ。人間が人間以外の動物を食物としているのと、同等のものだ。超人だけを非難するのは、おかしい」
 と弁護した。
「大体南極に住めないひ弱な人間に、地球を任せるのはどうであろうか。超人にこそ、地球の長たる地位を与えるべきではないか」